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地方自治体の経営について考えること (1)

佐賀市には多布施川という川がある。もともと佐賀城下に水を供給するために引かれた人工河川なのだが、何キロもの桜並木が続く、隠れた桜の名所である。この時期は、多布施川のほとりをジョギングすることが多いが、とても気持ちがよい。
さて、佐賀市の市長職を退いてから半年が過ぎ、講演の仕事も少しずつ増えてきている。独立1年目は非常に厳しく、これを乗り越えるまでの辛抱と努力が必要であることは、独立して成功している友人や知人からアドバイスを受けていたが、確かに公務員と比べると自分の素の実力が問われる世界である。
ある有名なコンサルタントの方からは、「ともかく本を出しなさい」とアドバイスを受け、3月、4月とIT関連の本の執筆に力を注いできた。ゴールデンウイーク中も、最後の確認に追われているところである。
講演のテーマとしては、やはり佐賀市役所での6年間の改革全体についての話を求められることが多いが、いろんなところでその話をし、そして議論する中で、「地方自治体の経営」について自分の考えてきたことを、HP上に書き込んでいくことにしたい。

1. 「急進改革派」?
平成11年3月から17年9月までの佐賀市長在任中の改革については、幅広く取り組んできたが、新聞などの一部マスコミは、私のことを「急進改革派」と呼んでいた。
自分自身は、九州の中でも遅れていて先の見通しも非常に厳しい佐賀市を、今の子どもたちが社会の中心になる30年、40年先でも今と同じくらいの経済的な豊かさを確保してあげたいと思っていた。
これからもっと進む人口減少と高齢化による様々な時代の変化を考えると、本来は、もっと早くいろんなことに手を打たなくてはならなかった。しかし、佐賀市民は大きな変化を嫌う保守的な性質である。佐賀の市民が理解できるギリギリのところで仕事をしているという意識だったので、「急進改革派」と言われたり、「早すぎる」と言われたりしても、「今、頑張らなかったら、子どもたちが大人になったときに佐賀市がどうなっているか、わかっているの?」、「このスピードでは、本当は遅いのだが」と感じていた。

2. 日経行政革新度ランキング
その前に、どの程度の改革をしたと評価されているのかを、日本経済新聞社が2年に1度行っている「日経行政革新度ランキング」で見てみたいと思う。
確か、ランキングを発表しだしたのは、1998年が初めではなかったかと思うのだが、大きくは4つ(@透明度、A効率化・活性度、B市民参加度、C利便度)の各項目について、当時は700程度あった市町村役場(東京23区を含む)に質問をし、偏差値を出して順位をつけるというものである。
1998年の佐賀市役所の評価は350位だった。私の前の市長の時だが、ほとんど行政改革はなされていないという客観的な評価であった。これは、私の感覚とも一致する。
1999年に私が市長に就任してからは、情報公開など当たり前のことについて整備を始めたが、そう簡単に評価が上がるものではない。2000年度の評価は、171位であった。(逆に言うと、情報公開などの当たり前のことさえすれば、100位台になることは難しくない)
その後は、ガス局の民間企業への売却、学校給食や保育所の民間委託、市民がたらいまわしにされない総合窓口化、行政の意思決定過程への市民参加の推進などを進めてきた結果、評価は急激に上がり、2002年度は第20位、2004年度は全国第13位となった。2002年度からは、福岡市役所や行政改革では大変有名な北九州市役所などを抜いて、九州では第1位となった。
このことは、九州の行政関係者には驚きであったと思う。全く目立たない、また、時によっては馬鹿にされることさえある佐賀県の都市が、日本で初めてのことや九州で初めてのことを連発するようになったのだから。
参考までに、2004年度の佐賀県内の各都市の順位を述べておくと、佐賀市役所が13位であるのに対して、唐津市582位、鳥栖市605位、伊万里市314位、武雄市640位、鹿島市479位、多久市504位である。どれだけ佐賀市役所が突出していて、逆に言うと、佐賀県民の相場から見れば浮いた存在であったかがわかる。
IT関係のランキングはもっと悲惨で、これについても日本経済新聞の系列の会社が市町村の電子化の度合いを評価しているのだが、2005年度では佐賀市役所は46位(これでも九州では1位であり、特にIT化では九州の自治体は大きく遅れている)だが、例えば、鳥栖市は1363位、多久市は655位と寂しいものがある。
この行政革新度ランキングについては、調査の項目が毎回少しずつ変わる。時代の新しい変化を踏まえた項目に入れ替えられるので、常に努力していかないと、順位はすぐに下がってしまう。

3. 「行政改革」とは何か?
東京に行くと、「佐賀市役所は行政改革に頑張ってますね」といわれることが多かったのだが、講演を仕事として行うようになって感じるのは、「行政改革」そのこと自体が目的となってしまっている行政関係者がたくさんいることであった。
「行政改革」という言葉自体には、具体的意味はない。繰り返すが、具体的な意味はない。「行政改革は進めなくてはならない」と呪文のように言う人が多いが、それだけでは具体的に何をするつもりなのかはさっぱりわからないのである。
少し事例を挙げてみると、熊本市役所のHPでは行政改革とは「これまでの役所の仕事のやり方などを変えて良くしていく取組み」とされている。何をするかはさっぱりわからない。横須賀市役所のHPでは、主に、財政の建て直しと、市民参加による市民のための行政の実現をあげている。
さすがに政府の方はより具体的で、簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の法律(案)では、小さな政府を実現するために公務員の数の削減や特殊法人改革をすることが明記されている。

4. 行政改革を行う目的は何か?
行政改革という言葉自体は具体的な内容を持たない。とすると、行政改革の内容を考えるためには、目的がはっきりしなくてはならない。何を目的として行政改革を行うのか?そのことを具体的に考えていない行政関係者は、とても多い。
何を目的としてということになると、それぞれの自治体の置かれている状況を考えなくてはならない。もちろんこの「置かれている状況」とは、将来の見通しも含んでのことであることはいうまでもない。
参考までに、今から7年も前の平成11年3月当時の佐賀市の置かれていた状況を振り返ってみると以下のような状況であった。
- 人口は、平成7年度の国勢調査をピークとして減少が始まっており、今後、一貫して人口減少と高齢化が進むことが推定されていた。ただ、市民は、全く知らなかった。
- 人口が減少し、高齢化が進むと住民税が減少する。また、人口が減って、建設業以外の産業が育っていない状況では、土地の需要が減少し、一貫して地価が下がり続ける。これは、固定資産税の減少を意味する。
- 政府の財政状況は、税収の増加と借金返済で危機的な状況であり、今後、政府の公共事業や補助金、地方交付税交付金は一貫して減少する。
- 高齢化に伴い、保健・福祉関係経費が一貫して上昇する。
- 財政難により公共事業は大幅に縮小せざるを得ないが、建設業に変わる地域を支える産業が全く育っていない。一方で、佐賀市を支える支店・営業所経済は、銀行等の再編統合により縮小が見込まれる。(平成11年の段階では、ほとんどの人が、銀行がつぶれるなどとは思っていなかった)
- 佐賀市の経済の中心の一つである卸・小売業は、流通革命の影響で、縮小を余儀なくされる。
- エスプラッツ、駅前第三セクター方式による再開発など、巨額の税金を投入して前市長が進めていた「社会の拡大を前提とした」市役所の事業はまもなく、破綻する。
このような状況であったが、当時、ほとんどの市民はこのことを予想していなかった。これは、情報公開が全くといってよいほど行われていなかったからでもあるのだが、せいぜい、「高齢化が進んで大変だ。政府の財政が厳しくて、行政改革が必要だ。商業は福岡市にお客を取られて大変だ」という程度の認識であった。

5. どんな社会を実現したいのか?
では、これで行政改革の具体的な内容が決まるのかといえば、これだけでは決まらない。
このような状況の中で、どのような社会をいつまでに実現するのかということがないと、行政改革の具体的な内容は決まってこないのである。企業に勤めておられる方たちからすれば、当たり前以前のことだとお感じになっていることだと思うが、ほとんどの自治体はこんなことすら出来ていない。
かくいう私も、この点については抽象的であった。自分自身は、九州の中でも遅れていて先の見通しも非常に厳しい佐賀市を、今の子どもたちが社会の中心になる30年、40年先でも今と同じくらいの経済的な豊かさを確保してあげたいと思っていた。その尺度として、市民一人当たりの平均所得を使うのが良いかと思っていたが、データが2年遅れになり、経営の指標としては非常に使いづらかった。
佐賀市の置かれている状況を考えると、今と同じ豊かさを30年、40年先の子どもたちにも提供できるようにすることは至難の業である。特に、建設業と卸・小売業に代わる地域を支える産業を育成することが急務であったが、そのための種銭を作らなくてはならない。
税収が減る→前向きな事業に取り組めない→産業が衰退する→子どもが出て行く→人口が減る→税収が減る→前向きな事業に取り組めない→産業が衰退する
このような負のスパイラルが加速すると、もはやどうしようもない。
この負のスパイラルは佐賀市ではすでに始まっているが、これをとどめるためには、前向きな事業を特定の分野に集中して投下しなくてはならない。そして、そのためのお金を先に作らなくてはならない。
佐賀市役所の行政改革は、このような将来目標と置かれている状況の分析があって、初めて取り組む具体的な内容が決められたのである。その際には、自分の政治力と議会の状況を見て、ギリギリのところで決めていくことになる。
次回は、もう少し、佐賀市及び佐賀市役所の置かれていた状況を詳しく説明したい。
2006年5月6日
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