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2006年10月韓国訪問記 (2)

19時30分にインチョン空港に着陸した後、ホテルまではリムジンバスで移動した。乗客は全部で10人ほどだったが、日本人は私だけ。後は、英語を話す白人が4人と、中国語で話しているアジア系の人が5人だった。
ホテルは、リッツカールトンホテル。高級ホテルである。部屋は豪華だが、つくりは甘い。洗面台の栓がきちんと真ん中についておらず、中心からずれている。
他の人たちは、12時過ぎに到着して、国際連合電子政府研究所長の金所長から韓国電子政府の未来について講演を受けていた。私がホテルに到着したのと同時刻に、他の人たちも食事を済ませてホテルに帰ってきたところだった。
希望者はホテルの近くにお酒を飲みに行くことになり、私も同行した。いろんな立場の人と本音で語れるのもこのツアーの面白いところである。日頃は仕事で競争している各社の人たちが韓国の印象を語りながら、いつしか日本のIT産業のあるべき姿を語りだすのは楽しいものである。
1. 韓国政府行政自治部から「韓国電子政府のビジョンと戦略」を聞く
19日の朝は、まず韓国政府行政自治部の訪問である。
行政自治部の公務員IT研修室に入った一行
韓国政府の電子政府化の実行部隊を指揮していた行政自治部の金課長補佐からお話を伺った。以下は、金氏のお話の要約である。
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電子政府の発展段階は以下のような五段階がある。
- 第一段階:着手
- 制限的な情報提供が行われている。タイやセネガルなど
- 第二段階:発展
- コンテンツ及び情報の周期的なアップグレードが行われている。中国やインドなど
- メールを通じ意見交換が行われ、申請様式の電子的な提供もなされている。マレーシアやペルーなど
- 第四段階:電子取引
- ビザ、パスポート、出生及び死亡記録などのオンライン発給や、税及び手数料などの電子納付が実現されている。アメリカ、シンガポール、イギリス、韓国など
- 第五段階:統合処理
- 部署間・機関間の境界がなくオンラインサービスが提供されている。該当国はない
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韓国政府は"G2C"ではなく、"G4C"を目指している。この違いは大きい。「2」は"TO"であるが「4」は"FOR"である。すなわち、IT化は政府内部の業務の効率化が目的ではなく、あくまで国民が便利になるためのものであるということだ。
韓国の電子政府化の現状は、"G4C"はよくなったが、"G4B"はまだまだだと思っている。
韓国の政府としては、現在は再跳躍をするための期間と捉えており、本格的に業務のBPRを行って、全て終了した。これからは、いよいよ再跳躍を始めるときであり、政府サービスの付加価値を創出していきたいと考えている。
これまでは、今まであった手続きを電子化するのが精一杯であったが、現段階では、証明書類も手続きも出来るだけ減らして、業務も簡略化している。
2004年の段階では、申請業務オンライン化は15%であるが、2009年には85%まで持っていくことを目標としている。また、政府機関の人事、財政、監査などの共通業務の処理は、2004年段階ではバラバラで部分的電子化にとどまっており、相互に連携していないが、2009年には、全面的に電子化し、一元化する予定である。また、紙の台帳と電子台帳が共存しているが、これも2009年には電子台帳で一元化する。各省が所管しているデータベース(住基、土地台帳、税金関係、建築関係など)も、2009年には各省間で全面的に共有する予定である。
このため、各省庁が導入するシステムは、政府(行政自治省)の標準化チームが定めた標準(Java、Oracle等)に従うことになっている。行政自治省が了解したものでないと各省のIT予算はつかない仕組みとなっている。技術標準の作成などの技術的なことは韓国電算院が行っており、ここには民間から中途採用した技術者などが80名程度いて、そのうち90%は博士号を持っている。
韓国の電子政府化が進んだ大きな要因は大統領のトップダウンにあり、閣議の席でも直接、各大臣に対して「○○省の電子決裁率は、何パーセントか?」と度々質問するほど関心を持っていただいた。
また、電子決裁の効率を上げるため、決裁の流れを大幅に簡略化している。担当者が起案をし、チーム長(年齢ではなく能力で決まる)と長官の三人しか関わらない。また、電算院の長官は、オフィスの環境も民間企業の事務所のように変えてしまった。
なお、今後、どのような方向に特に力を入れるかについては、次期大統領の方針を聞いてからになる。

韓国の電子政府の現状と方向について語る金課長補佐
私が驚いたのは、すでにITという技術を前提として、法律と各省庁の仕事のやり方を全面的に見直していたことだ。今の日本の法律はあくまでオフラインを前提として法律を組み立てているが、韓国ではオンラインを前提として各種の法律を見直したという。
それだけでなく、データベースを、各省をまたがって利用できるようにしたことだ。これが出来れば、企業登記の申請の際に納税証明や住民票や印鑑証明を添付する必要もなくなる。
日韓公務員のITに関する力量の違い
私が驚いたのは、このようなBPRを韓国政府の公務員が自らやっていることだ。技術的にJavaもXMLも使いこなせる職員がたくさんいるという。そもそも、金氏が言うには、ベンダーに任せていては、本当に便利な業務改善は出来ないので、公務員自らがBPRをしなければだめだとのことである。
この点は、日本の公務員(政府、地方自治体問わず)と大きく違う。日本の公務員はJavaを使いこなせる者はほとんどいない。それだけでなく、業務を効率化する手法を身につけていない。研修を受けることすらない。
間接業務を効率化する手法はいくつもあるが、効率化するためには今の仕事がどのように行われていて、どのくらいの時間がかかっているかということが把握されていなければならない。しかし、きちんとした業務マニュアルを持つ市役所はまれであり、また、ABC分析を行って業務量を把握しているところもほとんどない。というより「ABC分析」という言葉自体を知らない。そんなレベルである。佐賀市役所も業務マニュアルを作ろうとする段階で終わっている。
だから、韓国政府では公務員自らがBPRを行っていると聞いたときは驚きであった。しかし、それが本当である。一番仕事の内容を知っている者が改善に取り組むのが、一番効果が上がるはずだから。
このように韓国の公務員が力をつけているのには、理由があった。それは、昇進に際しては試験があることだけでなく、十分な自己学習をしていることが昇進や給与査定の要件になっているということである。
金氏の場合には、年間100ポイント勉強しないといけないそうである。どのような勉強をすると何ポイントというのが決まっているそうで、学校に通ってもよいし、イーラーニングをしてもよいし、本を読んで論文を書き行政自治省のHPにアップして評価をしてもらうというのでもよいそうだ。
100ポイント達成しないと、人事考課でマイナスがつくそうである。忙しい課に配属されると自己学習が出来にくくなるが、そこにも配慮がある。課長は、部下がきちんと自己学習しているかどうかを管理する責任があり、部下が基準を満たしていないと課長の人事考課に影響があるそうだ。
金氏は、自分から希望してLGグループに出向している。自分が実践的な力をつけるためには企業での仕事のやり方を学ぶ必要があると判断して、上司に出向を願い出たそうだ。それまでは韓国政府には企業に出向するという制度はなかったそうで、金氏の件が前例となって、その後、企業に出向するという制度が出来たそうである。
金氏は、オーストラリアの大学で政治経済を学び、大学院で外交の修士号を取得している。その後の自己学習で、IT技術も身につけ、自分のほうがその辺のSEよりは優秀であると断言していた。実際に、カナダ政府など40の国の電子政府開発計画のアドバイスをしているそうであり、次の週はカナダに出張だと言っていた。
年収は600万円程度で、韓国の公務員の給料は民間に比べると相当に安いそうである。しかし、社会的な名誉がある。国の為に、そして自分の誇りの為に仕事をしている。
私にとっては、韓国政府がすでにBPRを終えて、データベースの共同利用を始めているという話よりも、この金氏のお話が印象的だった。
韓国政府の公務員がITだけでなく自ら省の壁を越えてBPRを成し遂げたことと、自己学習をしてITの技術を身につけていることである。日本の公務員はITの能力は低いが給料は高い。韓国政府の公務員はITの能力は高いが給料は低い。全く対照的である。日本の公務員も、人事制度に能力主義を出来るだけ取り入れるとともに、自己学習に対する支援を制度化し、人事考課上の評価に取り入れる必要があることを痛感した。
2. ソウル市役所データベースセンターを訪問
その後、ソウル市役所のデータセンターを訪問した。内部は、写真撮影を禁止されていたので外側の写真しかないが、ソウル市の様々なデータを管理しているところである。参加していた大手のIT企業の社員の方に聞くと、設備としては日本と変わらないということだったが、大きく違う点が一つあった。それは、運営管理をソウル市の公務員が行っているということであった。
日本の市役所と違って情報関係の専門の職種がある。サーバのちょっとした故障なら自分たちで修理してしまうそうだ。
参加者もこれには驚いて、「民間委託しないのですか?」と質問したところ、答えは意外なことに、「民間のほうが、給料が高いので、高くつく」ということであった。何より、データセンターの管理を公務員自ら行うことなど、現状ではほとんど不可能であるからだ。
「民間の半分の給料で、どうして優秀な人が雇えるのか?」という質問があったが、どうも役人になるということが社会的に名誉なことであるからだという返事であった。また、リストラもないということもあるそうだ。
考えてみれば当たり前のことで、解雇されるリスクがない公務員のほうが同じ能力なら給料が安いというのが当たり前である。しかし、日本ではこうはいかない。

ソウル市データセンターの概観。静かな山の中にあった。
では、三回目は、韓国国税庁を訪問して伺ったe-TAXシステムのお話をしたい。すでにほとんどの事業者が税の電子申請をしている。税理士の97.1%がこの電子申請の仕組みを利用しているのである。
詳しくは次回以降、お話したい。
2006年11月5日
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