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2006年10月韓国訪問記 (4)

1. 区役所で即日交付されるパスポート
視察最終日の10月20日は、帰国の日であったのでソウル市の中心部に位置する「都心空港ターミナル」で出国手続きを行った。
そのビルの二階が「都心空港ターミナル」だったのだが、同じ建物一階に江南区役所の出張所が入居していた。大変に混雑していたが、廉社長の説明によると、江南区役所がパスポートの発行も行っているとのことだった。日本では、岡山県が岡山市役所に発行事務を委託しているが、多くの都道府県では県庁が発行している。発行申請に必要な書類のうち住民票は住基ネットで行政側が確認することになったが、戸籍関係の書類は必要である。現住所が本籍地の市町村である人は市役所に取りに行かなければならないので、住民にとっては、市役所でパスポートの申請ができるのが便利である。
「住民本位の良い取組みだな」と感心してみていたら、廉社長が言うには、「よほど混雑していなければ即日発行されますよ」ということだった。考えてみると、なぜ日本のパスポートの発行は何日もかかるのだろうか。どうせ交付のときは本人がとりに来るのだから、運転免許証のように即日発行してもよさそうなものだが?
トヨタなどの効率化に熱心な企業がパスポート発行業務を見直したら、相当に改善されるだろう。北朝鮮の隣の国ということもあって韓国のほうが安全保障には日本よりはるかに厳しい。その国が、即日発行しているのである。日本の行政は、スピードを上げなくてはならない。

江南区のパスポートが発行される出張所
2. 江南区役所は12年で職員を半分にした
10時から、江南区役所の訪問である。三階建ての庁舎を二年ぶりに目にしたが、この区は韓国で一番豊かで住民の所得も非常に高いところであるにもかかわらず非常に質素な建物である。
なぜ質素に見えるのか、今回、説明を受けた。もともとは政府の調達庁の倉庫兼事務所だったところを、改造して区役所にしたのだそうである。リファイン建築である。
このような節約の意識は、区の行政に色濃く流れていて、韓国で一番お金がある自治体にもかかわらず、徹底して行革が行われている。1997年のIMF危機の影響もあるとは思うが、クオン前区長が区長を務めていた1995年からの12年間の間に、2200人いた職員を1000人減らして1200人にまで減らしているのである。それでいて、江南区(人口54万人)は財政が良いので仕事の量は他の区よりもずっと多いそうだ。
3. 電子民主主義に導入されたメリットシステム
まず、会議室に通されて映像での紹介である。もちろん日本語版である。私はその説明を聞くのがすでに三回目となるので、ここでは省略するが、興味のある方は、江南区役所の日本語版ホームページにアクセスしていただきたい。http://japan.gangnam.go.kr/ である。江南区役所の詳しい取組みは、廉宗淳 著 「電子政府実現へのシナリオ」(時事通信社)か、拙著の「日本を二流IT国家にしないための十四か条」(日経BP社)に詳しく書いているので、こちらもご一読をお勧めする。
もともと韓国は役所内部だけでなく政府機関との情報交換が進んでいるので、日本と比べると住民票の写しや税証明が必要なケースがとても少ないのだが、住民票等の写しが必要な場合も、半分以上が自動交付機や家庭のプリンターからの発行に切り替わっている。ちなみに住民票の写しは、一通350ウォン(30円程度か?)である。
これまでわからなかったことの中で、江南区役所が進めている電子民主主義制度がなぜうまく動いているのだろうかという点があった。江南区役所は、ホームページ上で希望者に無料でアドレスを提供しており、その人たちに対してアンケート調査をしたり、政策提言を受け付けたりしている。
54万人の人口に対して35万人の会員登録がある。そして、区役所が事業を検討しているときなどにアンケート調査を求めるのだが、それに対して住民からきちんと返事が来るとのことであった。
なぜ、返事が来るのだろうか。日本であれば、アンケート調査を求めても特に若い人たちを中心として回答率が低い。なぜだろうと思っていた。日本では、回答が少ないだけでなく、自治体が開いているホームページの掲示板は匿名の少数の人間が誹謗中傷を繰り返すので、閉鎖に追い込まれてことも多い。一般の人は発言しなくなる。もちろん文化の違いもあるのだろうが。
できるだけアンケートに答えてもらうために、江南区はメリットシステムを導入していた。
まず、35万人のうち、最初にアンケート調査などに答えてくれるかどうかを確認し、協力すると答えた人が半分くらいになる。そして、その人たちからのアンケートの回答率を高めるために、ポイント制度を導入している。
詳細を聞く時間はなかったが、回答の度にポイントが加算され、100ポイントを超えると携帯電話の料金が割り引かれる仕組みが導入されていた。日本でも企業がアンケート調査をするときに、回答してくれた人には抽選で商品があたるようにしていることがあるが、自治体のアンケートでメリットを与えるところは聞いたことがない。
それにしても、ITの時代にふさわしいメリットシステムだと思った。なお、この仕組みを考えたのは、区役所の職員である。
4. アンケート結果を政策立案に活用
また、このアンケート調査も広く政策立案とその決定に活用されていた。新しい事業の立案の際には、アンケートで市民がどう思っているのかを聞くそうである。そして、執行部が予算案を決定する際には、もちろんお金に限りがあるので、住民の評判の良いものから順番に予算化されていく仕組みになっている。まさに、ITを活用した直接民主主義である。一方、日本の自治体では、予算案の編成過程を公開し住民からの意見を聞きますよという仕組みを持っているところがあるが、住民から寄せられる意見は少ない。
その後、江南区役所一階にある自動交付機を見学した。これも日本の自動交付機よりはるかに安価である。佐賀市役所が昨年4月に導入した時点では、国産が850万円程度だったものが、韓国製は300万円程度であった。日本のものは安全性を追求したがゆえに金融機関のATMを改造していたが、韓国製のものは自動販売機を改造したものであった。
江南区役所一階の自動交付機
自動交付機の中身
ハード面の違いだけでなく、発行できる書類の種類も大きく違う。韓国の自動交付機は、江南区役所関連のものだけでなく、他の市の住民票などの書類、政府機関が持つ土地台帳、自動車登録原簿など行政機関の枠を超えて発行できるものがたくさんある。
日本の自治体が学ぶべきことは多い。
午後からは、韓国政府が運営している「ユビキタス展示館」を見学したが、省略する。午後18時30分発の飛行機で日本に帰国した。相変わらず、インチョン空港はでかい。
5. 自治体の様式の違いによる無駄
この旅行では、企業の人がほとんどだったので、日本の自治体のIT化のおかしな点もいくつも教えてもらった。
市町村の枠を超えて活動している企業からは、市町村の固定資産税などの税関系の申告書の様式が違うので困っているという話を聞いた。
わたしも講演で自治体に行く際には、そこの住民票と印鑑証明のサンプルをもらうようにしている。そして様式がかなり違う。ところによってはA5判の証明書もある。基本となるソフトがあっても、自治体ごとに様式のプログラムを作り変えなくてはならない。あるプログラマーも、「お金にはなるんですが、やりがいないですね。税金を払っている側からすると、お金の無駄ですもんね。住民票の様式がその市独自のものであっても、何の意味もないですよ」と。
そして、その市役所の不思議なこだわりは、税関係の申請書の様式まで自治体ごとにこだわりを見せているのだそうだ。
これが企業にとって何が困るかというと、コンピュータで税関係の申告書を作成するのだそうだが、書式を変えないといけないのだそうだ。企業活動が自治体の枠を超え、かつ会計事務がIT化された時代にあっては、企業から自治体に提出される申請書の様式は標準化されなくてはならない。
これから講演で自治体に招かれたときは、住民票や印鑑証明のサンプルだけでなく、税関係の申請書のサンプルももらって、自分の目で確認してみたい。
6. そろばんの時代の仕組みを引きずる統計業務
また、ほかにも面白いことを聞いた。政府の統計関係の業務である。政府はさまざまな統計を作成しているので、全ての統計業務に当てはまるわけではないが、市町村がその市町村内の数字を作成し、都道府県がその県内の数字の合計を把握し、それを政府に報告するという仕組みの統計がある。
面白いというか馬鹿げているなと思ったのは、政府に報告する際には、千円単位で報告し、市町村が県に報告するときには一円単位で報告することになっている。すると、四捨五入の関係では、市町村が一円単位で合計した金額を総合計した金額と、市町村ごとに四捨五入した金額の合計とが異なることがあり、それをうまく調整することに県の担当者が苦労しているそうである。できるだけ差がでないように調整するソフトも売られているそうだが、これなども、エクセルで単純集計してそのまま政府に報告し、政府が千円単位で発表するか一円単位で発表するかを決めればよいことである。そもそも、県庁を経由しなくてはならない理由がない。相変わらず、そろばんの時代を引きずっている。そんなくだらない作業にも、県庁の担当者が税金をもらって仕事をしている。
こんな話を聞いていると、「自治体はホントに財政危機なの?」と思ってしまう。
7. おわりに
以上、四回にわたって韓国のIT事情視察の報告を書いたが、興味のある方はぜひ韓国に視察に行ってほしい。今回の視察はITコロンブスツアーといって63回目である。主催はe-corporation社である。
ツアーの名前の意味をよく聞かれる。「コロンブスの卵」の話から由来している。数年前から韓国のITが各分野でかなり日本より進んでいる点がある。しかし、そのことを廉社長が日本人に説明しても、日本人は韓国を馬鹿にして、信じない。それで、韓国に連れて行って、「できるはずないと言っているけど、実際にやっているところがあるでしょ?」と意識を改めてもらうためにやっているそうだ。今までの発想の枠を破ると、できることはたくさんあるなと改めて思った旅だった。
2006年11月23日
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